【読書】時には詩集を「黙っていても二人には」(吉野弘)

吉野弘さんの詩、読んでいて心の奥がじん、とした。

こんな関係、素敵じゃない?

「〜ほうがいい」こうすべきだって言わないんです。そこがいいです。
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『祝婚歌』

二人が睦まじくいるためには
愚かでいるほうがいい
立派過ぎないほうがいい
立派すぎることは
長持ちしないことだと
気づいているほうがいい
完璧をめざさないほうがいい
完璧なんて不自然なことだと
うそぶいているほうがいい
二人のうち どちらかが
ふざけているほうがいい
互いに非難することがあっても
非難できる資格が自分にあったかどうか
あとで疑わしくなるほうがいい
正しいことを言うときは
少しひかえめにするほうがいい
正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと
気づいているほうがいい
立派でありたいとか
正しくありたいとかいう
無理な緊張には色目を使わず
ゆったりゆたかに
光を浴びているほうがいい
健康で風に吹かれながら
生きていることのなつかしさに
ふと胸が熱くなる
そんな日があってもいい
そしてなぜ胸が熱くなるのか
黙っていてもふたりには
わかるのであってほしい

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吉野弘 詩集『風が吹くと』サンリオ、1977年

ちなみにこの詩は吉野さんが「民謡みたいなもの。どうぞご自由に」と著作権を放棄されたそうです。

こんな人に出会えたら素敵だね。

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